2024年4月18日

毒患い

 まだ大事なものがある

暖かくて懐かしくて脆い。

オレンジ色の背景、一人のようで一人じゃない。

むにむにとした空間に思い出は詰まっている。

2024年4月13日

しらない麻薬

 夏日、木々が揺れ、蝉がざわめく。

自分たちの世界で精一杯なもんで、

季節の残り香さえ無視されている。


一分一秒が宝物だと知る頃には手に入らなくなっていた。

それは、若さ故に無くしてしまう、疎かになる世界全体を指している。

今は今で、未来の自分から反省されている。

結局後になれば全てが全て、現実だったとわかるのか。



2024年4月2日

星空を占領するもの

 一枚の紙を用意する、汗が垂れて、ぼやけるように滲み出した。

これまでいくら力を込めても裂けなかったその紙は、

滲んだ汗が終わらせた。

優しく裂けては行き詰まった。紙は一部しかふやけなかったのだ。

数年経って、汗が垂れた。亀裂の先に滲んだ。

そっと裂いたら奥まで裂けた。

その紙は上手に二分されたのだった。元には戻らない。

それはそれは、何色の紙でしょうか。

穢多

 物事をすりつぶし、ぐちゃぐちゃになった底の方。

めためたに潰れたその世界、ぬちゃりぬちゃりとなり響く。

明日もなければ希望もない、上まで上がる術もない。

ドロドロになる一つ前、ざらざらとした隣組。

他人の垢に身を寄せて、違いを一つ見つけ出す。

己ひとつと思い込み、しくりしくりと泣いている。

ガガガと擦れる足の裏、ドドドと叩くビンの中。

ピクリと一つ鼻が鳴る。脳裏をくすぐる香りたつ。

ざらざらとした表面に、ぴたぴた手のひら当てている。

ガリガリ指の腹使い、ぐんぐん頭を登らせる。

数多の腕が生えてきて、わたしの服を引きちぎる。

それでも無理やり暴れれば、ようやく出会える日の光。

2024年3月23日

曲がる時、かわいい

 粘ついた光が見える時、そこからが合図。

泥に足を取られ、鼻と口を塞がれ、目に砂が入る。

それでも息をする。そして手を差し伸べる。

いっそのこと、誰か私を標本に。

2024年3月22日

ぬるい雪

 過去に生きるものは腐敗する。

今。この時点を生きないと何一つ解決しない。

先のことを思う必要はなく、何一つ心配はいらない。

ただ脱力すればいい。

ジャラジャラと流れる時間の川から答えが一つこぼれ落ちた。

それは光もせず暗さもなく、ただ私と共在した。

ただ私に、一見、何の変化も感じさせず、

雪のように降り積もった。

春の訪れに憂いを纏うように、徐々に上がる気温と同じように、変化を受け入れる私に怖いものはない。




2024年3月4日

一つ目のイノシシ

はたから見れば光り輝いた二人は、心のうちを探り合い離れていく。

退屈がひしめき締まりのない生活の中、涙が流れる。

ほんとうにひとりだ

助けてください

井戸の底

2024年2月15日

廃れた喜び

 歳を重ねるごとに年月はスピードを上げ、まるで雪が溶ければ春が来て梅雨が終われば夏が来る。感傷に浸る暇もないよう、滑り落ちるように歳をとる。

大事なことは今この瞬間、私を構成するそれら全てがシンプルに出来上がった訳じゃなく、何億もの場面で埋め尽くされた混沌の魂ということ。

後何回、土曜日は来るだろう、後何回日曜日が来るだろう。

限られた生き方に目を瞑り、進化を願う実証的な今日この頃。 光を証明するように暗がりに隠れ潜んで1日を耐え忍ぶ。

心臓は付随的に機能して、心を叩くその音に嫌気がさすその日まで。

2024年2月14日

鉄屑の隣

 取り返しのつかない事をしている。そんな気分に溺れて苦しい悲しいもどかしい。

過去を彩った一つ一つの出来事は2月の桜に流される。

これからは一歩一歩踏みしめて進まないと地獄にさえ向かえない。


体の一つが再生すれば、また別箇所が剥がれてく。

きっと気持ちもそうだろう。

雑に剥がれた心の壁面は次第に癒え、また別箇所が剥がれてく。

時たまに、愛とか光が瞬間瞬間で私を治療する。

陽だまりに寝そべり2月の空、冷たい空気にさらされた明確な星達のその先、いいも悪いもないただの暗闇に助けを求め今日も過ぎて。

2024年2月13日

告白とカラス

 誰しもが忘れ去っていくもの、せわしい街の騒音や間を埋める談笑にかき消されている優しい雨。

目に見えない光の線が後になって、数年経って夜にふと映像になる。

風や霧、景色や匂い、それら全ては思い出の額縁を彩りきちんとした場所に飾られる。

不都合なものに蓋をして、タイミングを読み、場が乱れるのをいち早く察知する私は、何て優しい。

なんて優しい人。

肉体をミキサーにかけ、最後まで回したなら、液化しないでぶつぶつの、砕けた発泡スチロールの分子達が人の正体だとわかる。

一つ一つの粒に過去が宿り、それらが集まり肉体となる。

その内のたった一粒に、あなたの一粒になっているでしょうか私は。


2024年2月10日

冬の途中

 腹は減り、眠くなる。

欲を無視してもなお身体は生を求める。

幻になりつつある冬が、現実的な寒さを運び、

耐え忍ぶ夜も来る。

壁のスイッチを切ると同時に朝が来て、1日の消化に向かう。

町行く人は私に無縁で、そっけない。

その度木枯らしが私の気を逸らす。

心地の良い物質だけでこの空間を埋め尽くせたら、

天国さえも必要ない。

いつからか、周りを捨て自分を捨て、後悔を通り、諦めが広がり出すとこの世界は一体どこへ向かうのか。



2024年2月8日

ジャズ

 曖昧で空気のような世界に一人、たった一人でいるような。人と呼べるような気配はなく、スノーノイズだけが音を与える。

スタミナを知らない昆虫を尊敬し、今日もまた知らない何かに眠らされる。

この生活にゼンマイを巻いている存在があるとしたら、指先の力が弱った痴呆老人か。

無気力という便利な言葉じゃなく、複雑な糸の絡まりで動けないだけと信じてやまない愚かな獲物。

後は社会や集団に駆られるだけなのに一つの焦りも見せない私に、一体何が誰が手を差し伸べるだろうか。


2024年1月3日

涙寄せ

時計なんて意識しないで、時間というものは高速道路のようにせわしく、また大量に流れていく。

人は指針を忘れた時、路頭に迷う。大樹に寄りかかっていた幼い頃、無知という安心感が世界を包んでいた。

今はどうだろうか、考えるまでもなく答えは出てる。

神は独り用のボートを分け与え、オールを持つはこの両腕。ひたすらに暗い空間を気力の尽きるまで漕ぎ続ける。

一度方向を間違えたらそれは悲惨。涙でできた沼に嵌り、塩化ナトリウムの過剰摂取で死に至る。

指針や答えは内に宿り、誰一人として協力者はいない。

日常という波で流される、煌びやかな砂粒を血眼に探さないといけない。そこに必要なのは依存(愛)であり無知なのだ。