2023年6月22日

頬骨の高い丘に

 あらゆる方向から吹く風の様に、確かに大事なものが半透明のままその存在を知らせにくる。

そいつはきっと無形のダイヤで掴むことは決してできない。

愛とか心とかそんな単調なものじゃなく、また広く人々に知れ渡らない。

自分だけにしか訪れないそれは、必死に血眼に1ミリでも触れていたいものなのだ。

瞬きの速さで過ぎる1日の中、割かしゆったりとやってくるせいで、その大事さに気づかない。


例えばそれは季節の香りのようなもの。

教室の窓を開けた時、ホコリの匂いのカーテンと合わさる冬の匂いや、

朝、ご機嫌な太陽にすり寄るときに纏わりつく春の匂い。

これは他人に伝わる言い方で、

私自身、本音で言うと、

階段の曲がり角、過去に何度も嗅いだ腐ったドッグフードのような香り。

幼い頃遊んだ子にした漢方薬のような香り。

香りだけじゃなくそれはシチュエーションでもある。

デジャブだと片付けられないもので思い出のように確かなものでもない。

ただ死んだあと次の世界に引き継いでみたい唯一のものなのだ。



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